しばらくお互い黙ったままだったが、結衣が顔を上げやっと口を開いた。


「先生が何かを隠してることは、なんとなく気付いてました…」

「ごめん…」


確かに怪しいところ、挙動不審だったことは多々あったと思う。適当に誤魔化してちゃんと説明しなかったから、その間、結衣はずっと不安に思っていたはずだ。


「でも…まさか…こんなに大変なことだったなんて…」

そう言って、結衣は再び俯いた。その表情から、ひどく困惑しているのが分かる。繋いでいる手にもまったく力がなく、握り返してくることはない。



「頼むから……俺から離れないでくれ…」

たまらず結衣の身体を引き寄せ、ただそれだけを願いきつく抱き締めた。

懇願するように囁く俺を、結衣が身体を離して見つめてきた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「ごめんなさい…まだちょっと…混乱してて…」

そう言って俺から離れようとする結衣を、強く引き寄せた。ここで手を離したら、本当に俺の元から離れていきそうだった。


「離れないで…」

何度もそう呟くと、結衣が腕の中で声を詰まらせながら静かにすすり泣いた。