藤堂蘭子の姿を捉えた瞬間、結衣が繋いでいた手をパッと離した。

「結衣、大丈夫だから」

そう小さく囁き、再びその手をとりギュッと握った。そして、そのまま俺の背後に隠す。

藤堂蘭子に見られたらマズイと懸念しているわけじゃない。結衣の視界にこの女の姿を入れたくなかった。


「藤堂さん、ここで何をしているのですか?」

睨みつけながら硬い声で問うと、藤堂蘭子は平然とした様子で微笑んでいる。


「誕生日パーティーの招待状をお渡ししに来ましたの」

「…こんな時間に?非常識じゃありませんか?」

「三神さん、学校だといつもお忙しそうなので。帰りをずっと待たせていただきました。……まずかったかしら?」

そう言いながら、チラッと結衣を見てくすっと笑った。

その瞬間、結衣の身体がビクッと跳ねるのを感じた。少しでも結衣を不安にさせたくなくて、繋いだ手にグッと力を込めた。


「もしかして、その方が三神さんの言う大切な女性?」

「それが、何か?」

「まさか生徒さんだったなんて。…こないだお見かけしましたわよね?」


こないだと言えば、この女が最後に学校に来たときだ。高杉と一緒にいた結衣を覚えていたのか…。

何も答えず、ただ目の前の女を鋭く見た。


「三神社長のお気持ち、お察ししますわ……」

まるで気の毒だと言わんばかりに、藤堂蘭子は呟いた。