2人を玄関まで見送ったあと、前にいた親父がゆっくりと振り返った。


「やってくれたな銀次」

「先に仕掛けてきたのはそっちじゃないですか」

「貴様……」


どちらも譲らぬ気迫で睨み合いは続いていた。周りにいるお手伝いさんも皆見て見ぬふりをしている。アルミでさえこの不穏な空気を察しているのか全く近寄ってこない。


「銀次、いい加減にしろよ…」

「婚約は取り消してください。彼女と別れるつもりなんてありませんから」

「このたわけ者がっ!!生徒にまで手を出しおって…!!恥知らずがっ!!」

「るせえんだよ!!遊びじゃねえって言ってんだろ!!」

とうとう敬語を使うこともやめた。
玄関先でギャーギャーと言い合いをしていると、金一郎が仕事から帰ってきた。金一郎、ついでに志銅もこの実家で暮らしている。


「お!銀次じゃねえか……ってあれ?」

俺と親父の顔を交互に見て、近くにいたお手伝いさんにケンカ?ケンカ?と確認している。


「銀次、お前もこの世界で育ってきた男だ。この婚約にどんな意味があるか分かってるだろ」


先ほどまで声を張り上げていた親父が、今度は静かに吐き出した。