不満そうな顔をしている結衣に笑いながら声をかけた。

「大丈夫だって。何もしねえよ」
たぶん。という一言は心の中で呟く。

結衣が渋っているのは、俺が絶対手を出してくると思っているからだろう。
でも、さすがに俺も勉強で疲れきってる結衣に求めるようなことはしない。
……はずだ。

信用してない目を向ける結衣に、大丈夫だから、と何度も念押しした。
目は見れなかったけれども。

男の「大丈夫」ほど信用できないものはないが、自分にも必死で言い聞かせた。

まだ結衣は不安そうにこちらを見て訊ねてくる。

「ほんとに、何もしませんか?」

「ああ、結衣が誘ってこない限り」

誘いません!と顔を赤くしながら結衣は怒るが、その存在だけで俺の心をいとも簡単に翻弄するんだ。

なんでもない表情でも、俺がどれだけ我慢してるか結衣は知らないだろう。