うっ、と結衣が言葉に詰まっている。
部屋にはカチカチと規則的に動いている時計の音だけが響いていた。


「……なぁ、まだ?」


結構待っているが、結衣はまだ言わない。意を決したように口を開くが、恥ずかしそうにしてまた閉じる。さっきからそれを何度も繰り返していた。

そんなに言いたくないのか…?なんだかもの凄いことを要求している気になってきた。

結衣の頭の中では今パニックになっているのか、まだ何も言ってないというのに恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。

そんな様子の結衣に苦笑した。もう許してあげよう。たぶん、好かれている、と思う。


「結衣、もう勘弁してやるよ」

ハハッと笑い、恥ずかしそうに縮こまっている結衣の身体を再び抱き締めた。やっぱり結局は俺が折れてしまうんだよなぁ。また別の機会に挑戦してみるか。


俺の言葉に安心した様子で、結衣は身体の力を抜き俺の肩に頭を預けてきた。
…なんかもうこれだけで充分だ。



「……先生…」

「ん?」


しばらく抱き締めたまま柔らかい髪を梳き、結衣を堪能していたが、その言葉で顔を上げた。腕時計で時間を確認すると、そろそろ消灯の時間が近付いている。

絶対譲らないと意気込んださっきの自分はどこへやら、この腕の中に結衣がいればそれで良かった。

でもそろそろ部屋に帰さねえとな…。
そう考えていた俺の耳元を結衣の息がかすめた。



「……好き…」