そう思った俺が、何か話そうと口を開いたとき。

ふいに俺の頬に、ポタリと一粒の水滴が落ちてきた。


…雨…?晴れてんのに?

不思議に思って少しだけ、空を見上げて歩いていると。





「…っ…」





耳元で聞こえた、
涙を堪えるような…声。

明菜、…泣いてる?



何か話そうと思っていたのに。

簡単に慰める言葉なら、いくらだって思いついたはずなのに。


明菜のそんな声を聞くと、何も言えなくなってしまって。


俺はそのまま口を閉ざして、明菜の温もりを背中に感じたまま保健室まで歩いた。
首に回された腕に力が込められ、その度に明菜の手が俺のシャツをギュッと掴んだ。

何度もグスッと、鼻をすする音がして。



もう、既に授業が始まっている時間で。

中庭にも廊下にも、誰一人おらずにシンとしている中で、ただ明菜の小さな嗚咽だけが、耳に響いていた。