樹里の怒鳴り声を聞きながら、俺は明菜の方へと視線を向ける。
顔を上げて樹里の後ろ姿を見ている明菜に。
「…ごめんな。
大丈夫か?ケガとかねえか?」
そう言って、声をかけると。
俺の顔を見つめた明菜の表情が――急に、歪んだ。
今にも泣き出しそうで、
涙を堪えるような表情で、
「…っ…」
じっと俺を見つめるから。
「…ごめんな。どこか痛い…?」
俺の声にも、ただ首を横に振るだけでどうしたら良いのかもわからない。
小さな嗚咽を漏らしながら、首を横に振り続ける明菜を、ギュッと抱きしめた。
「…ごめん」
何に対して謝っているのか。
自分でも良く分からないけれど、明菜の顔を見ているとなぜかいたたまれない気になって。
何度も何度も、謝罪の言葉を口にしながら。
「…ごめん、ごめん…な」
涙を流し続ける明菜を、ただ強く抱きしめることしか出来なかった。
「…ごめん、」

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