樹里が、明菜に近付いて。
そう言った樹里の言葉に、俯く。
確かに、その通りだ。
俺は樹里に振り向いて欲しくて――…
だけど、樹里は俺のことを必要とはしていなくて。
だから、他の女と関係を持った。
もらった金で、樹里にプレゼントを贈った。
『だからね。
お金も払わずに、慎吾の側にいるアンタは邪魔…ってこと。
いまの話聞いてれば、意味、分かるよね?』
俯いたまま、ズボンの裾をギュッと握った。
…分かっていた、ことなのに。
どうして俺は、こんなに弱いんだろう。
現実から目を背けてばかりいて。
いつまでたっても何一つ変わらない――…
「…ふざけないでよっ…!」
乾いた音が辺りに大きく響いて、俺がはっとして顔を上げると。
なぜか樹里は頬を押さえていて。
『…ったあ…何すんのよ…!?』
「だって…!」
そう言って顔を上げた明菜は――泣いていた。
真っ赤な顔をして、
溢れ出る涙を堪えているようにも見えた。

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