ポケットから携帯を取り出し、画面に目を向けた先輩の表情が――…


少しだけ、歪んだ気が、した。





「…ごめん、ちょっと出ていい?」



「あ、はい…」





鳴り続ける携帯と、さっきまでと少し表情の違う松下先輩を見つめながら、あたしは小さな声で返事をした。

あたしの返事を確かめた後、先輩の指が通話ボタンへと伸びる。



ピッ…




「もしもし?……ああ、ユカ」





…え?
先輩が電話の相手に言ったのは、…女の人の、名前。
もしかして…彼女、いたのかな…?





「今日?…いや、別に何もねえけど」





目の前で交わされる会話に、あたしの胸は少しチクリと痛んだ。

デートの約束なのかな。
彼女、いないって聞いてたんだけどな…


告白する前に、失恋なんて―――…





「え?別に良いけど。



…分かった、じゃあ5万で。
6時にいつものとこで待ってて」