“…あたしは絶対、先輩みたいな人に落とされません”



俺は教室に戻りながら、さっき言われた言葉を頭の中で思い出していた。





「…井澤明菜、ね…」





あの女の名前を、口に出した瞬間。

さっき思いっきり叩かれた頬が、突然ズキッと痛んだ。





「…ってぇ」





あの女、本気で叩きやがって…



“あたし絶対に謝りませんから!”



そう言った、あの女の顔を思い出した。

泣きそうな顔して…
今にも涙が落ちそうで、だけど、必死に堪えてた。





「…変な女」





女って、驚くくらい簡単な生き物で。

今まで関わってきた女は、みんな簡単に落ちてくれた。
表面上だけの甘い言葉を吐けば、すぐに落ちた。


でも――…

あの時の、俺を見る強い瞳。

あの女は、違う…そんな気がした。


外見だけを目当てに近寄ってくる、他の女とは違う気がした。