グイッ…

突然強くシャツを引っ張られて、驚いて振り返ってみると。





「…あ、明菜?」




俺のシャツの裾を、明菜がしっかりと握っている。
当の明菜は、未だにすやすやと眠ったまま。





「…………」





思いっきり引っ張ってみたけれど。

…何なんだよ、この馬鹿力。
男の俺の力に対しても、びくともしねえし…


小さくため息をついて、俺は仕方なく明菜に近付いた。





「…おい、明菜。離せよ」



「…ん~」



「…早く離せって」



「んん…」





…起きねえし。

離してくれねえと、俺樹里との約束あんのに…


どうしたものかと考えていると、いきなりぱっと明菜の手が離れて。





「…れ…」



「え?」





今、何か言った、よな…?

その時もう一度、明菜の口が小さく動いた。





「…がんば、れ…」





眠ったまま。

少しだけ小さな笑みを浮かべて。