「――そんなことしても…
俺は落ちないよ?」
先輩はあたしの腕の中で抱きしめられた体制のまま。
少し意地悪そうに、耳元で笑った。
ねえ…
あたしもう、そんなこと思ってないよ?
確かに、先輩には好きになって欲しいけど――…
ゲームに勝つために、そうなって欲しいなんて思ってない。
「こんなことで…
先輩を落とそうだなんて思ってません。
だけどっ…
側にいてあげることくらいは出来るから…」
先輩の肩が、ピクンと揺れる。
ゆっくりと離れた二人の距離とは反対に、視線だけは離れても絡み合う。
「…一人が嫌なら、あたしが側にいます。
そうやって女の子を利用して来たのなら…あたしはいくらだって利用されます。
あたしなら…どれだけ利用されても構いません…っ」
先輩。だからお願い。
そんなに、悲しい顔はしないで…
そんなに、寂しそうな表情をしないで…
「――…ありがとう」

![[新連載]君への想い、僕らの距離。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.761/img/book/genre1.png)