それでも、すき。



グラウンドから野球部の掛け声が聞こえる。

それと同時にふいに肩を叩かれた。



「ゆーのっ。」


その呼びかけが、胸の奥を軋ませるように痛みを伝える。


「何ぼんやりしてんのー?」

どこか間延びした声で、あたしの顔を覗き込んだのはもちろん、香椎くんだ。



顔を上げたあたしに
彼はいつもと変わらない笑顔で

「ところで話って何?何かあった?」

と聞いてきた。



気が付けば、ここにはあたしと香椎くんだけで。

オレンジに染められた教室に、二人分の影が揺れている。



だけどそこに
いつものような心地よさはない。

あたしは俯いたまま、ゆっくり口を開いた。



「…香椎くん、」

「あ、また“香椎くん”って呼んでる!だから大和って――。」

「抱いて。」


被せたあたしの言葉に、香椎くんが目を丸くする。


彼の反応は当たり前だろう。

彼から求められる事はあっても、あたしから求める事なんて今まで一度もなかった。


だからあたしは確認するように、もう一度香椎くんへ言った。




「ここで、抱いて。」



首に腕を絡ませ、背伸びして唇を重ねながら。