「…香椎くん……?」


呼び掛けた横顔が、どことなく強張ってるように見える。

それは、教室でも音楽室でも見た事ない表情で。



どうしたの、と声にしようとしたあたしを遮ったのは、瞳ちゃんの言葉だった。


「初めまして。あたし、柚果と同じ中学校で、」

「――ゆの、行こう。」

「…えっ?あ、」


なのに、香椎くんは瞳ちゃんが話してる途中であたしの手を引き、歩き出す。


いや、歩くと言うよりも
“逃げる”ように。







「…香椎くん、」

しばらく歩いた所で、あたしは口を開いた。

どんどん駅から離れ、逆方向へ歩いてゆく香椎くんの背中は、あたしの呼び掛けにも足を止めない。


「ねぇ、香椎くん…。」

「………。」

「香椎くん、手…痛いよ、」



そこでようやく、香椎くんが立ち止まった。

「…ごめん」と消え入りそうな声で。



無言と街の雑音が二人を包む。

香椎くんは、背中を向けたままあたしを見ない。



その違和感は、次第にあたしの中で不安に変わった。