「違う、そうじゃなくて。」
「…?」
「何か、緊張するって言うか。」
口元を手で隠し、ゴモゴモと言葉を濁す香椎くんの顔は、心なしか赤い。
そんな彼を、あたしは間抜け面で見上げる。
すると、痺れを切らしたのか、突然香椎くんが声を張り上げた。
「だーからっ!ゆのがいつもより可愛いから、緊張するんだって!」
真っ赤な顔して、髪をぐしゃぐしゃしながら。
「……香椎くん、」
「ほら、もう行くぞ!」
「う、うん。」
スタスタと歩き出す彼に、慌てて付いてゆく。
見上げた背中に、香椎くんの真っ赤に染まった耳。
まるで伝染したように、顔中が熱くなるのを感じた。
そして込み上げる嬉しさが、自然と口元を緩ませる。
…香椎くんも
あたしと同じだったんだ。
緊張して、ドキドキして。
昨日はあんまり眠れなくて。
そう思ってたのは
あたしだけじゃ、なかったんだよね。
きゅん、と縮まる心臓。
少し前を歩く背中を見つめて、改めて思った。
もっと、近づきたい。
もっと、香椎くんを知りたい。
強く、思った。

