でも、一人だけ
本当のあたしを知ってる人が居る。
「……っ、柚果、」
「ん…っ、」
暗幕に遮られた音楽室。
真っ赤な絨毯に組み敷かれたあたしの上に居るのは、教室で見る彼とは違い、どこか妖艶にすら思える。
そんな彼に見下ろされ、乱れるあたしも、教室で見るあたしとは全くの別人なんだろう。
吐き出されるのは
“欲”と言う名の甘い吐息。
閉ざされた音楽室で確かめ合う温もりに、愛なんてない。
――そう、最初から。
「ね、委員長。」
まだ汗ばむ額を拭う事もなく、香椎くんはあたしを呼んだ。
セックスの時は“柚果”って呼ぶくせに、事が終わった途端、彼はあたしを“委員長”と呼ぶ。
何て白々しい。
全くもって不愉快極まりない。
「…何。」
ワイシャツのボタンを締め、絨毯に投げられたネクタイを手に取る。
あえて短く返事をしたあたしに、香椎くんは臆する事なく言った。
「タバコ、ちょーだい。」
いつもと変わらない、澄んだ声で。

