それでも、すき。



「日曜日、どっか行かない?」


ポーン、と彼の指先に鳴らされた鍵盤が、まどろみを漂うあたしへ風をつれて来た。

そのせいで揺れたカーテンに、返事が一歩遅れてしまった。



「…え?」

日曜日……?


よほど間抜けな顔をしていたのだろう。

あたしを見て、香椎くんは笑いながら言った。



「何か用事あった?」

「…な、ないけど…。」

「けど?」

「ど、どこに行くのかな…って、」

「それは、ゆのが決めていいよ。」

「あたし、が?」


うん、と香椎くんは頷く。


…そう言われても。
急に行きたいところなんて、思いつかない。


すると、黙り込んでしまったあたしを見かねて香椎くんが立ち上がった。


「ゆの、これがどうゆう事かわかってる?」

「え?」


絨毯に座るあたしへ、目線を合わせるように香椎くんも腰を下ろす。

あたしを見る彼の目が、まるで子供をあやすみたいに優しくて。



「―――デートだよ。」


頭に乗せられた手は

その言葉の意味を理解するには、少し温かすぎた。