自惚れだと言われてもいい。

自意識過剰だと言われても。


―――音楽室で待ち合わせしてんだ。



香椎くんは、居る。

音楽室で、いつものようにピアノの前に座って。



そして彼が待ってるのは……。





「遅いー。」


息が上がる。
肺が、酸素を求める。

あたしが、香椎くんを求めるのと同じくらい。



「いつまで待たせるの、いいんちょー。」

「………っ、」

「待ちくたびれちゃった、俺。」



……そう。
香椎くんが待ってるのは、あたし―――。




「…いいんちょ?」

「…うぅ~っ、」

「何その返事。」


ぷぷ、っと笑った香椎くんの声が耳元に響く。

抱きついたあたしを、彼は優しく受け止めてくれた。



そして―――。



「ゆの。泣くのはまだ早いんじゃない?」



とびっきり極上の、甘い声があたしを包んだ。