その日、あたしは伏せるように視線を下げたまま
出来る限り、香椎くんを視界に映さなかった。
何も、見たくない。
何も、聞きたくない。
今のあたしじゃ
何を映しても、何を聞いても醜く感じてしまうから。
零れ落ちそうになる涙に唇を噛み締めて、今日が早く終わる事を強く願った。
そんな気持ちのまま
ようやく訪れた放課後。
「柚果、一緒に帰ろ~っ。」
「…あ、うん…。」
菜未ちゃんに言われ、カバンに荷物を詰める。
…こんなにも一日が長いなんて思わなかったな。
無意識のうちに出そうになる溜め息を、懸命に飲み込みながら帰り支度をしていると。
「大和~、」
扉から聞こえた声が、あたしの動きを止めた。
「今日遊びに行こーぜー。」
そう言いながら教室に入って来たのは、確か隣のクラスの飯島くんだ。
視線は動かさない。
だけど耳は彼の声をめざとく探し当て。
「俺、今日パス。」
「何だよ、最近付き合い悪いじゃん大和ー!」
そして、また絶望に突き落される。
「音楽室で待ち合わせしてんだ。」

