それでも、すき。



…香椎くんって明日が誕生日なんだ。

考えてみると、あたしはほとんど香椎くんの事を知らない。


好きなモノや嫌いなモノ、どんな音楽を聴くのかも。

あんなに抱き合ってたのに、カラダの事以外は、何も。



…つくづく、あたしってバカだな。

これで香椎くんを好き、だなんておこがましいにも程がある。


だから、カラダだけしか求められないんだ。

“あたし”は求められない。




「柚果はさ、」

「…え?」

ぼんやりしていたら、突然話を振られた。


「好きな人、いないの?」

菜未ちゃんは、屈託のない笑顔であたしに聞く。


不意をつかれた質問。


「…あたし、は…。」

――いない。
そう答えればいいだけなのに、何故か言葉が出て来なかった。



もし、ここで
菜未ちゃんと同じだよ。

あたしも香椎くんが好きなんだよ、と言ったら、彼女はどんな顔をするんだろうか。


……なんて、ね。


言えるはずがない。

言う訳ないじゃない。



「…いないよ。」



だって、あたしは
“カラダだけの女”なんだもん。