「いいんちょー。」
ざわつく教室の隅。
声のする方へ視線を投げれば
目にも鮮やかな栗色が揺れた。
あたしの毎日は
彼の一言で始まる。
「英語のノート見せて。」
まるで“ニコリ”と擬音が聞こえてきそうな爽やかな笑顔。
この笑顔に見つめられたら、女の子は誰でも落ちるんじゃないか、なんて
そんなバカげた事ですら、本気で思ってしまう。
そのくらい、香椎くんは朝から爽やかなのだ。
「………。」
あたしは無言のまま
英語のノートを差し出す。
それを受け取ると
これまた爽やかな笑顔で香椎くんは言った。
「ありがとう。これ、昨日貸してもらった数学のノート。」
差し出されたノートに無言で手を伸ばせば、香椎くんはその笑顔を残して自分の席へ戻った。
その途端、突き刺さるような女子からの視線。
でも、ここには嫌味を言って来る子はいない。
理由は簡単だ。
染めた事などないロングの黒髪は、二つに結わえたみつあみ。
ダサい黒ぶちメガネ。
もちろん、スカートは膝丈。
そう、あたしは絵に書いたような委員長、そのものだからだ。

