「なーにー。」
黄色い声に囲まれ
香椎くんはアクビをしながら返事をする。
その手には、教科書や参考書ではなく、マンガ本が握られていた。
「やだー、大和!マンガ読んでるの?」
「バカだな、キミたち。これも自習の一貫だっつーの。」
「あはは、大和らし~っ!」
まあねー、なんて言う香椎くんは
このクラス一の人気者であり、呑気な人でもある。
そんな彼の周りには
男女関係なく、人が集まるんだ。
あたしと香椎くんの根本的に違うのは、きっとそうゆうところ。
…そう言えば、今日はまだノート借りに来ないな。
ふとそんな事を考えていると
廊下側に座る香椎くんと目が合ってしまった。
そりゃあもう、バッチリと。
「…っ、」
慌てて目を逸らしてみるものの、既に誤魔化しようが利かない。
刺さるような視線を感じながら、あたしは小説を読んでいるフリをした。
あれから、変わらず香椎くんとは話していない。
もう2週間は経つだろうか。
もちろん香椎くんは至って普通に
ノートを借りに来るけれど、これといった変化はないのが今の状況だ。
でも、今日は借りに来なかったし
このまま全てがなかった事になるはず。
そう思っていた。
―――この時までは。

