だから、あたしも同じ事を繰り返す。
「……………。」
無言で差し出すのは、バツ印の書かれた英語のノート。
「ありがと。じゃあ、これ昨日借りたノート。」
けれど
香椎くんは変わらない。
優しい笑い方も。
ノートの隅っこに書かれた小さな“ゆずマーク”も。
変わったのは、ぐんと寒くなった秋の風と音楽室での出来事がなくなっただけ。
そう、あたしの気持ちが、不安定なだけなんだ。
まるで、無限に続くループのように。
「…バッカじゃないの、本当。」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
開いたノートを溜め息混じりに閉じて、あたしは窓の外に視線を這わせた。
本当、バカみたいだ。
飽きもせず、ノートを借りに来る香椎くんも、それをわかっていて貸すあたしも。
心底、救いようがない。
こうなる事
最初からわかってたはずなのに。
何で、あたしの心は
こんなにも彼に揺れてるんだろう。
何で、あたしを惑わせるの?
「………っ、」
押し殺した感情が
また溢れ出しそうで、咄嗟に机に顔を伏せる。
耳を塞ぎたくなるくらい騒がしい教室に、あたしはそのままそっと瞼を閉じた。
でも、やっぱり
瞼の裏に浮かぶのは、彼…
香椎くん、だった。

