「何か今日、いつもと違くない?」



そう言われて振り返ると、香椎くんはタバコをふかしながら、あたしを見ていた。

閉ざされた暗幕に、彼の栗色がよく映える。


昼休みの音楽室は静かだ。

学食もあたしたちが過ごす教室も音楽室の反対側、つまり渡り廊下を隔てた向かいの校舎にあるのだ。


特に音楽室は校舎の一番端にあるからか、一際静かで、たまに聞こえる誰かの笑い声も随分遠くに感じられる。

だからこそ
まるでこの世界に二人きりになったような気持ちになるのだろう。




あたしは再び香椎くんへ背を向けながら、ワイシャツのボタンを留めて聞き返した。



「…何が?」

極端に短い返答。

人は口を開けば開く程
心の奥の感情がこぼれ落ちる生き物だと思う。


だから、あたしは必要以上に言葉を発しなくなって。

気持ちを悟られないように振る舞うのは、もはやあたしの癖として染み付いてしまった。



けど、香椎くんはそんなあたしに構わず同じ言葉を投げて来る。


「なーんか、いつもと様子が違ったな、と思って。」

「…そんな事ない。」

「そっかなぁ?」