香椎くんに引っ張られ、連れて来られたのは隣の音楽準備室だった。
吹奏楽部が使うのであろう楽器が、所狭しと並べられている。
「しゃがんで。」
ぶつからないように奥へ進むと、ちょうどシンバルの陰が空いていた。
そこへ香椎くんの言われた通りに屈む。
「あ、あったあった!」
その瞬間、鍵が空いたのか、音楽室に入って来た女の子たちの声がすぐ傍に聞こえた。
…ギリギリセーフ。
「よかったね、あって。」
「うん!」
「もう失くさないでよー?」
この話の流れだと、おそらく授業の時に忘れ物でもしたんだろう。
あたしは息をする事も忘れ、じっと時間が過ぎるのを待った。
でも、煩いくらいにドキドキと弾む心臓。
…当たり前だ。
人一人座れる空間に、香椎くんと二人、体を寄せ合って隠れているのだから――。
「…委員長?」
すぐ耳元で呼ばれ、はっと我に返った。
「どうかした?」
「な、何でもない。」
冷静でいようとすればする程、それに反発するように鳴り響く心臓。
聞かれたくなくて体を離そうとしても、肩を抱かれてるせいか身動きが取れない。
このままじゃ―――。

