それでも、すき。



「悪いけど。」

ガタン、とイスが鳴る。

立ち上がった香椎くんが振り返ってあたしを見下ろした。


その様子に、クラスメイト全員があたしたちに視線を向けていて。

そして、黒髪が揺れた瞬間。



「俺はいいんちょーと話すことなんかない。」


横を通り過ぎた香椎くんが、あたしの視界から消えた。



それを見た吉永さんが

勝ち誇ったようにあたしを一瞥し、香椎くんのあとを追い掛けてゆく。


再びざわつき始めた教室に、一人佇むあたし。


「…柚果、」


そんなあたしの肩を
菜未ちゃんがそっと抱いてくれた。

ぽたり、とメガネを伝い落ちる涙。



「……柚果?」


異変に気付いた菜未ちゃんが、あたしの顔を覗き込む。



髪を結えてたゴムを解く。

度のないメガネを床に投げ捨てた。



あたしは、“委員長”じゃない。


あたしは今までの“あたし”じゃない―――。




驚いた様子の菜未ちゃんに、あたしは笑ってみせる。


「…ありがとう。」



そう伝え、教室を飛び出した。