俯き、涙を堪えるあたしを瞳ちゃんが呼ぶ。
「…柚果。」
それは昔…
あたしたちがまだ親友で居られた時と同じように優しく聞こえて。
誘われるように
顔を上げた瞬間―――。
パァン、と小気味よい音と同時に、左頬に感じた鋭い痛み。
目の前がグラリ、と揺れた。
「ちょっとアンタ!何してんのよ!」
「アンタには関係ないでしょ。」
瞳ちゃんは菜未ちゃんを一瞥し、すぐにあたしへ視線を戻す。
頬に走る痛みに、呆然と瞳ちゃんを見つめ返した。
「今だから言わせてもらうけど。」
尖った口調で、瞳ちゃんは話し出す。
冬の冷たい風が、あたしと瞳ちゃんの間をすり抜けた。
「大和の忘れられない人は、あたしじゃない。」
「…え――?」
その言葉に、張り詰めていた緊張が崩れてゆく。
嘘だ、だって…。
あたしは
この耳で聞いたんだ。
瞳ちゃんがずっと好きで
忘れられなかったんだ、と。
…でも。
香椎くんは
そう、ハッキリ言ってた?

