それでも、すき。



乾いた音、そして手のひらに痺れる感覚。

気が付けば
あたしは瞳ちゃんに手を上げていた。


「柚果!」

そんなあたしの腕を、すかさず菜未ちゃんが掴む。

頬を押さえた瞳ちゃんが、目を丸くしていた。


そして掴み掛かるように、口を開く。


「何すんの…っ!」

「香椎くんは!」


でも、瞳ちゃんの言葉を遮ってあたしは声を荒げた。



「香椎くんは瞳ちゃんのこと、ずっと…ずっと好きだったんだよ!?」



『ごめん…。』


あの日―――。

あたしたちが別れたあの日。


忘れらない人は瞳ちゃんなの、と訊いたあたしに、香椎くんはそう言った。


悲しそうに瞼を伏せて。

ただ、“ごめん”と。


香椎くんにあんな顔をさせられるのは、瞳ちゃんだけなんだ。



「なのに、なのに何で…っ、」


悔しくて。

香椎くんの想いを考えると、胸が痛くて。



唇を噛み締め、あたしは言葉を詰まらせた。



あたしじゃダメななんだよ。

あたしじゃ、香椎くんを幸せにしてあげられない。



瞳ちゃんじゃなきゃ―――。