「…柚果?」
突然立ち止まったあたしを、菜未ちゃんは首を傾げて見つめて来る。
でも、動けなかった。
何で―――。
そんな言葉が、無意味に頭の中を駆け巡る。
菜未ちゃんがゆっくりと、あたしの視線の先を辿って振り返り
小さく呟いた。
「…あの子――。」
言い終わる前に、あたしは走り出す。
「ちょっ、柚果!」
ちょうどよくホームに入って来た電車が、あたしを呼ぶ菜未ちゃんの声をかき消した。
階段を駆け上がる。
徐々に近づく背中に手を伸ばす。
今までずっと、向き合うことを恐れていたはずだったのに。
だけどもう
何も考えられない。
ただ自然と体が動いていたんだ。
そして電車に乗り込もうとしていた彼女の肩を掴む。
その拍子に、隣の男も一緒にこちらへ振り返った。
息を切らし、あたしは彼女に問い掛ける。
「どうゆうことなの…?」
ねぇ、ちゃんと答えて。
―――瞳ちゃん。

