…初めて。
初めて、香椎くんのことを“怖い”と思った。
ただ好きだった、あの頃とは違う彼が。
あたしが知らなかった香椎くんが、怖いと思ってしまった。
次の日から
香椎くんは停学処分になり
いつも騒がしかったクラスは、ぽっかり穴が空いたみたく静かだった。
数日もすれば元通りになったけれど
香椎くんの居ない教室は、どことなく違和感があって。
…それは、あたしも同じだった。
埋められない虚無感が、容赦なくあたしの胸を締め付けてくる。
「…大丈夫?」
そんなあたしを気遣ってくれるのも、やっぱり菜未ちゃんだけ。
頼りなく頷くあたしに、眉を下げた菜未ちゃんは言った。
「大和ん家、行ってみる?あたし知ってるから。」
香椎くんが停学になってから、今日で一週間。
どのくらいで停学が解けるのか、誰も知らない。
二週間って言ってる人もいるし、明日には来るって噂もある。
けど、あたしはもう――。
「…ううん、いいの。」
「柚果…。」
「もう、いいの。」
もう、自信がないんだ。
香椎くんと、向き合うことが。
あの目に、捕えられることが。
怖いんだ。

