それでも、すき。



急に落ちた視界に、彼の足元が映り込んだ。

視線をゆっくりと上に向ける。

冷たくあたしを見下ろす香椎くん。



“やめて”

声にしようとしても、全く言葉にならない。


痛みを気にしてる余裕なんてなかった。

ただ、涙で滲む彼が、ぼやけ霞んでゆく。



ゆらり、と揺れる影。

瞬間、香椎くんの腕が、あたしに伸びて来た。




…怖くて。

すごく、怖くて。


訳のわからない恐怖に、あたしは身を固くして、ぎゅっと瞼を閉じると時間が過ぎるのを待った。





―――でも。




ふと訪れた静寂に、恐る恐る目を開ける。



「香椎くん…?」

そこに、香椎くんの姿はなかった。


慌てて立ち上がり
廊下を見渡しても彼は居ない。

どこにも。



途端に力が抜け、あたしはその場にしゃがみ込む。


「…っ、」


溢れた涙は、頬を伝い

冷たい床に一粒、零れ落ちた。