それでも、すき。



ペタン、ペタン、と規則正しく廊下に響く足音。


呼吸が止まる。

意識が、その足音だけに奪われて。


ガラ、と扉が開いたのと
あたしが顔を上げたのは、ほぼ同時だった。



何も考えられなくなる。

ただ、目の前にあるその姿だけがあたしの瞳に映っていた。




「――香椎くん…。」


だけどやっと言葉が出たのは、彼がカバンを持ち上げ、再び教室を出て行った時だった。



「…っ、香椎くんっ!」


待って…っ!


ガタン!と音を立て
イスが床にひっくり返る。

震える足で教室を飛び出し、もう一度彼の名前を叫んだ。



「香椎くんっ!」


ポケットに手を突っ込んだまま、彼が立ち止まる。

でも振り返ることはない。


その瞳に、あたしを映してはくれない。



…わかってる、のに。

何で、それだけでこんなにも苦しいんだろう。


どうして、こんなに胸が痛いの?