ぽつり、と呟いたあたしに、香椎くんが顔を上げる。
その視線は、真っ直ぐあたしへ向けられていて。
「…香椎くんが忘れられない人って…、瞳ちゃん…なの…?」
震えてる声が
視界の全てを滲ませた。
こんな無意味な事、聞いてどうするんだろう。
返ってくる言葉は
わかってる。
わかりたくもないのに、わかってしまうんだよ。
「ごめん…。」
それが、香椎くんの答えだった。
色を失ったみたいに
目の前が真っ白になる。
呆然と扉の前で立ち尽くすあたしに、香椎くんは続けて言った。
「けど、ゆのへの気持ちは嘘じゃなかった。」
それだけは信じて欲しい、と。
何が本当で
何が嘘だったかなんて、今のあたしにはわからない。
今考えてみれば、全てが嘘だったんだとしか思えない。
だけど、ただひとつ。
たったひとつ確かな事は―――。

