だけど俯いたまま、彼はその先をなかなか口にしようとはしなかった。
二人の視線が交わる事はない。
二人の影が重なる事も。
しばらく沈黙を守っていた香椎くんは、口にする事を拒むように、だけどハッキリとした声色で。
「だけど中2の夏…偶然、瞳と再会した。」
あたしを見ずに、呟いた。
その瞬間、あたしは全てを悟ってしまったんだ。
聞きたくない。
知りたくない。
でも、理解するには全てのつじつまが合いすぎる。
…付き合ってたんだ。
香椎くんと瞳ちゃんは。
幼い頃、共に過ごし
ピアノという共通点で繋がってた二人が
久々の再会を果して結ばれる。
きっとそれが
事実なんだろう。
どうゆう理由で別れてしまったのかはわからない。
でも、一瞬であれ
短くとも瞳ちゃんは香椎くんの“大切な人”だった。
“彼女”だったんだ――。
「…じゃあ、」
なら、あの噂も
きっとそうなんでしょう?

