何で、とか、どうしてここに、なんて聞くのは愚問だ。

香椎くんは
ずっとここに居たんだ。


朝からずっと、ここに――。





「香椎くんっ!」

駆け寄って肩に触れると、雨が浸みた制服の冷たさに思わずゾッとした。

香椎くんは俯いたまま動かない。



「香椎くん!ねぇ、しっかりして!」

何度呼び掛けても返事のない香椎くんに、頭の中が真っ白になる。

辺りを見渡してみたけれど、雨に濡れたバス停には人ひとり居なかった。


誰かを呼び出そうにも、あたしは携帯を持ってない。



「…お願い、目覚まして…っ!」

縋りつき、必死で呼び掛ける。


頬を伝う雫が
雨に溶けて地面に落ちた。

しばらくして打ち付ける雨音に混じって聞こえた掠れた声。




「…ゆ、の……?」


涙がぴたり、と止まった。


その呼び掛けに、弾かれるように顔を上げる。

薄く開かれた瞳が、あたしを見ていて。



「香椎くんっ!」


二人の視線がぶつかった時、雨は更に強さを増していた。