ぼんやりしながら、慣れた帰路を辿る。

この雨のせいか、電車の混み合みあいように心底うんざりした。


踏み出す度に跳ねる水溜まりに、あたしの憂鬱が満ちてゆく。


バスも電車と同じく混雑していたけれど、さすがに帰りも歩いて帰る気にはなれなくて。

隙間なく人で埋まる窮屈な車内で、ようやく最寄りのバス停に着いた時、あたしは自分で自分の目を疑った。




…嘘だ。
そんな訳ない。

そんなはず―――。



「お客さん?」


出口付近で立ち尽くすあたしに、バスの運転手が怪訝そうに声を掛ける。

雨に濡れたバス停に見える、その姿。



「――あ、ちょっと!お客さん!」

あたしは定期を見せる事も忘れ、バスから飛び出した。



雨が顔を打ち付け、視界を邪魔する。

制服に染み込んでゆく雨の感触を肌で感じながら、それでも気にせず、あたしは雨の中駆け出した。


バシャン、と水溜まりが鳴る。




「香椎くん…っ!」


そこに居たのは、バス停の脇に座り込む香椎くんの姿だった。