こうゆう時
つくづく携帯とか持ってなくてよかった、と思う。
声を聞いてしまったら
せっかくの決心でさえ鈍ってしまうような気がするから。
けど、欲を言うなら
せめてもう二度と会わなくていいように、遠くへ引き離して欲しかった。
どこでもいい。
彼が居ない世界なら、きっとどこでも。
「こら~、瀬名遅刻だぞー。」
「…すみません。」
「それにしても珍しいな、瀬名が遅刻なんて。」
具合でも悪いのか?と担任に聞かれ、あたしは曖昧に頷いて自分の席に着いた。
この日、初めて遅刻をした。
高校に入学して、初めて。
理由は眠れなかったから、とか
学校に行きたくなかったから、とかそんな単純な話じゃない。
居たのだ、彼が。
いつもあたしが乗るバス停の前に、香椎くんが。
あんなに傷ついたのに
しっかり時間通りに学校へ行こうとしてた自分にも驚いたけれど、何よりもそれが一番ビックリした。
だからあたしはバスには乗らず、遠回りをして駅へ向かったのだ。
遅刻なんて、最初からするつもりじゃなかった。
せざる得なかったんだ。