そこから先は
説明するまでもないだろう。
あたしは売ったのだ。
自分を守る為に
今の生活を保つ為に、自分のカラダを。
――香椎くんに。
「……ここで吸う気?」
「うん。別によくない?」
ダメ?と念押しされ
あたしは仕方なく持って来たポーチからタバコを取り出す。
「さんきゅー。」
受け取るなり、躊躇う事もなく香椎くんはタバコをくわえ、先端に火を点けた。
その様子は明らかに、常習犯。
ぷか~、と呑気に音楽室を漂う煙に、あたしは彼へ問い掛ける。
「……香椎くんも、吸ってるの?」
「ん、たまにね。」
「…ふーん。」
「これ、甘いね。ガムみたい。」
そう言う香椎くんは
ジャニーズも顔負けの極上スマイル。
不覚にも、ドキっと胸が高鳴って。
慌てて顔を逸らし
立ち上がって扉に向かうと
「いいんちょ。」
その呼び掛けが、音楽室の鍵を解くあたしの手を止める。
「またね。」
笑顔が…いや、香椎くんが何だかぼやけてゆく。
紫煙と共に届いた声は、どこかピーチの香りがした。

