それでも、すき。



――目の前が歪む。
全てが色を失くしたように、滲んで見える。


どうやって来たのかは覚えてないけれど、あたしは一人街中で立ち尽くしていた。



「…何、してんだろう…あたし。」

落とした言葉は街の喧騒に掻き消され、人の波が駅へ流れてく。



誰の目にも留まらず。

誰もあたしに気付く事なく、時間は過ぎてゆく。



何だか急に目に映る全てがバカらしく思えて、あたしはメガネを外し、乱暴に三つ編みを解いた。


今すぐにでもタバコを吸いたい衝動に駆られながらも

制服のまま吸うのはマズイ、なんて冷静に考える。


…本当、バカみたいだ。


くしゃり、と髪を掻き上げ
溜め息混じりにくすんだ空を見上げた。


と、ちょうどその時だった。



道路を挟んだ向こう側。

見覚えのある横顔が
あたしの視線を奪い去る。


私立の制服が人混みをすり抜けて。



『柚果!』


あたしは反射的に声を張り上げて、その名前を叫んだ。




「…っ、瞳ちゃん――!」