それでも、すき。



触れる度、欲しくなる。

近づく度、欲張りになる。



でも、真実に目を背けたままじゃ、絆は生まれないから。



『大和には忘れられないヒトがいる、みたい。』



あたしは
香椎くんが好きだから。


だからこそ
全てを見せてほしいの。

悲しみも苦しみも、何もかも二人で分け合っていけるように。


同じくらい、香椎くんにもあたしを好きで居てほしい。


なのに、何で――。





「…どうして、」

涙が頬を伝うのと同時に、口から零れ落ちた言葉。



「どうして何も答えて、くれないの…?」

「…ゆの、」

「――嘘つき。」


もう、何も信じられない。

信じたく、ない。




“好きだよ”


そんなの―――。




「……っ!」

「ゆの!」


突然走り出したあたしの腕を、すかさず香椎くんが掴んだ。


「……やっ、」

咄嗟に手を振り払うと、空を切るような音がする。


だけど、傷ついた瞳に見つめられるのが怖くて、あたしはまたすぐに走り出した。

追い掛けて来る足音は、聞こえなかった。