おろし

---わたしは、診察室のドアをあけ、中に入り、先生の顔を見た。
この病院の先生は、白衣を着ている所は普通の病院の先生と同じだが、
顔は包帯でグルグル巻きになっていて、まるでどちらが患者かわからないといった具合の先生である。

聞くところによると、重度の紫外線病らしく、日光にあたると肌が蕩けてしまうそうだ。
だから、深夜にしかこの病院は開院しないらしい・・・もっともである。

先生は、わたしが診察室に入ると、看護婦からカルテを受け取り、なにやら看護婦の耳もとで話をする。

先生は、大声で話すことができないとも、聞いた。咽内がただれているらしい・・・

なにやら先生から聞き取った看護婦は、棒読みでわたしに告げる。


「これは紫水といって入浴材ではあるが、薬でもある。一度ためして欲しい。
この香りが喉に効くといわれている。」


そう私は、喉をいわしたのだ・・・

あの化け物にとり憑かれて、この病院に通い出したのだ。
あの化け物とは、シケモク女のことである。この化け物の事は、いずれ話すとして・・・

今日はその最後の治療だ。
しつこい霊障なので、完治させるため、先生は新薬を探してくれていた。


「これは人魚化学舎が発明した新薬だ。肌から吸収するらしい。試してみないかい?」


そう、人魚科学者は知っている。あの先生がいるところだ。
この前のことを思い出した---このことも、いずれ話さなくてはならない・・・

わたしは、看護婦から、その薬を受け取り、病院をあとにした。