「彩花」

その声に振り返ると、淳平の姿があった。

「あ…じゃあ、失礼します」

岡本くんはあたしと淳平に頭を下げると、さっさと逃げ出した。

淳平がよっぽど怖いのね、岡本くん。

まあ、誰だってブラックオーラ全開のところを見せつけられたら逃げるけど。

岡本くんの姿が見えなくなると、
「彩花、さっきの」

淳平が話しかけてきた。

「ああ、岡本くん?」

「岡本?」

「事務のバイトの子で、書類を拾うのを手伝ってくれた子。

たまたま会っちゃって」

「ふーん、そう」

淳平は何だか不機嫌な様子だ。

そりゃそうか、自分以外の異性と口聞いていたんだから仕方ないか。

「淳平」

「んっ?」

「何にも、ないからね?」

あたしは言った。

「あたしは、淳平が好きだから」

ケータイ小説によくあるベタなセリフを、あたしが言うことになるとは思っても見なかった。