{霧の中の恋人}


中には、小さな一冊の本が入っていた。

見た目、ずいぶん分厚いようだった。


本を取り出し、手に持った感触で、それが普通の本でないことが分かった。


アルバムだ。


布製の青い表紙をめくると、やはり写真が1ページに2枚ずつの写真が、整然と並んでいた。

ずいぶん古い写真のようだ。


写真でしか覚えがないお父さんと、若いお母さんが何かの建物の前で撮られた写真。

お母さんがグランドピアノと向かい合って座っている写真。


──お母さん若い。

思わず笑みが漏れる。



真っ赤なワンピースを着たお母さんは、いつもの笑顔を向けていた。

ふんわりと春風を呼ぶ笑顔──…。


笑った顔は、今も昔も変わらないようだった。


写真の下には、手書きで”ピアノの発表会”と書かれたシールが貼ってある。


ピアノの発表会…?


知らなかった…。

もしかしてお母さん、ピアノ弾けたの?


発表会に出るほどピアノが弾けたなんて、娘の私ですら知らないことだった。