{霧の中の恋人}


木で出来た20㎝程の小さな箱。


この箱は、お母さんが大切にしていたものだ。


鍵がついていて、中を見た事はない。


”この箱の中には、とても大切な物が入っているのよ。
だから開けちゃダメよ”


小さい頃、その箱の中身が気になって、お母さんに何が入っているのか質問したときに言われた言葉。

隠し事など一切しなかったお母さんが、唯一ヒミツにした存在が気になって、何度も聞いたけど、箱の中身は決して教えてくれなかった。


何が入ってるんだろう…。


中身が気になってしょうがないけど、箱にはカギがついていて開けられそうにない。


どこに鍵をしまってあるんだろう…。


「………あっ!!」



私は、あることを思い出し、机の引き出しを開けた。



お母さんが最後に残した手紙。


シーリングスタンプで封筒の封がされていた。

シーリングスタンプの中に小さな鍵が埋め込まれていたのを思い出した。


開けたときは飾りなのかと思ったけど、もしかしてこの箱のカギなのかもしれない。


私はそっと、シーリングスタンプの中から鍵を取り出した。