{霧の中の恋人}


実は、引っ越しをしてから未だに開けていない段ボールが、いくつかクローゼットの中に仕舞われている。


当分使わなそうだと思った物は、そのままクローゼットの中に突っ込んだ。

あと、お母さんの遺品も、持っていけるだけ持ってきたけど、整理をするのが辛くてそのままにしてしまった。


このまま放置したままだと、お母さんが可愛そうだよね。


クローゼットの中から、その一つを取り出して、ガムテープを外した。


段ボールを開けた瞬間、お母さんの匂いがした。

花の香りのような、春の匂い。

懐かしい匂いだ…。



中から取り出された物には、一つ一つにお母さんの思い出がつまっている。


このスーツ、私の高校の卒業式のときに着ていた…。

このネックレス、お母さんのお気に入りで、よくしていたものだ…。


ジワリと目に涙が浮かぶ。


手で涙を拭いて、また段ボールの中に手を入れると底のほうに一つの箱が隠れていた。