久木さんはピタッと足を止め、ゆっくりと振り向いた。
自分で言っておきながら、彼の顔を見れない。
こんなことを言うなんて、どうかしているかもしれない。
「…君は分かっているのか?
普通のホテルじゃないんだぞ?」
「分かってます!
…でも…久木さん体調悪そうだし…
私のせいでこうなった訳ですし…」
「…やはり問題があるだろう…。
俺なら別に平気だ。
いらぬ気を使うな」
…彼は、いつもそうだ…。
「久木さんはいつもそうやって自分は大丈夫だ、平気だって言って!
本当は辛いくせに強がって!」
これを世間では逆ギレというのだろうか。
それでも私の気持ちは治まらなかった。
「あんなに苦しがってる姿をそばで見たら、心配するに決まってる!
心配する人間の気持ちも考えてよ!
私がどんな気持ちで……!!」
「…分かったから…」
久木さんはポツリと呟き、また歩きだした。
「分かったって、本当に分かってるんですか!?
まだ頭が痛いんでしょ?
辛いんでしょ?」
「……ああ…
実はまだ少し頭痛が治まらないんだ…
だから、そうしてもらえると助かる…」
前を向いたまま、久木さんが言った。
海から聞こえる波音で、掻き消されてしまうような小さな声で…。
でも、確かに聞こえた。
彼の素直な言葉を───
私は嬉しくなって、やたら派手なネオンに向かって歩き出した。


