海沿いに出たところで、”絶望”という文字が脳裏に浮かんだ。
見渡せる視界の先には、やはりおじさんが言っていたホテルの光と、民家の明かりしか見えない。
それでも、私たちは無言のまま海沿いを歩いた。
前を歩く久木さんの大きな背中を眺めながら考える。
──久木さんは今、一体どんなことを考えてるんだろう───…。
こんなところまで無理やり連れてこられて、体調が悪いのに寒い中、歩く羽目になって……
怒ってる?
いや、呆れてるよね…。
でも、いつもの久木さんなら、文句の一つでも返ってきてもおかしくないのに、何も言ってこない。
相当、具合が悪くて文句を言う元気もない…とか?
「…やはり、他には何もなさそうだな…。
仕方ない…やっぱり駅にもう一度もどって、タクシーを待とう」
久木さんは頭に手を当て、髪を掻き上げながら言った。
クルリと方向転換し、もと来た道を戻ろうとする久木さん。
除々に遠ざかっていく背中に向かって、私は言う。
「…あのホテルに泊まりましょう…」


