{霧の中の恋人}


「じゃあこの近くに、別の沿線が通ってる駅とかありませんか!?」


おじさんは顎を手で摩りながら言う。


「駅ねぇ…この辺じゃ、ここしかねぇなぁ。
バスも、もう最終行っちまってるべ」


そんなぁ…

じゃあ、どうやって帰れば…


まさかこんなに早く電車がなくなるなんて思わなかった。


もっと調べとくべきだったんだ…。



ガクッと肩を落とした。



「タクシーで帰るしかなさそうだな」


久木さんが息を吐き出した。



そうだよ!

タクシーなら帰れるよね!



「タクシーったってなぁ…
この辺りにタクシー会社がないから、呼んでもいつ来るか分かんねぇよ?」



おじさんの一言によって、一筋の希望が打ち砕かれた。


「ああ、ここから海沿いに10分歩けばホテルがあるから、そこに泊まればいいべ」


おじさんが指さす方向に、ポツンとネオンの光が輝いている。


遠目でも分かる。


あのピンク色やら、青やら、やたらド派手に輝く建物は……



「まあ、ラブホテルだけっどよー
お前さんらアベックなんだし、問題ねぇべ!」



ガハハハと豪快に笑うおじさん。



ラブホテルって…


そんな物つくるなら、タクシー会社の一つでも作ればいいのに!


問題ねぇって…



問題ありまくりでしょ!!


私の心の中のツッコミは届かず、おじさんは「若いっていいなぁ~」なんて呑気に口笛を吹きながら去っていった───…。