{霧の中の恋人}



「どうしたんですか?」


私の問いかけにも答えず、久木さんは急に頭を抱え出した。


「…うっ…」


顔をしかめて、その場にしゃがみこんだ。

頭に手をあてて、苦しみ出した久木さん。


思わず駆け寄って、久木さんの肩に手を置く。



「頭?頭が痛いんですか!?」



「うううっ…」



目を見開いて、息が荒い。


尋常じゃないくらいの苦しみようだ──。



「そうだ…救急車…!」


バッグの中から携帯電話を取り出し、震える手でボタンを押そうとするが、中々うまくいかない。


救急車って何番だっけ!?

もうっ!こんな時に!



ようやく番号を思い出し、ボタンを一つ押したところで、下から手が伸びてきた。


携帯電話を持つ手を、久木さんの手が掴んだ。



「…だい、大丈夫だ…」


「大丈夫って、こんなに汗をかいてて、息も荒くてっ!
顔色も白いし!
大丈夫な、平気なわけないじゃないですか!」



「…興奮するな…
もう治まってきた…」



そんなこと言ったって、携帯電話ごと私の手を握る久木さんの手も、痙攣するように震えてる。


私はもう片方の手で、久木さんの手を握りしめ、何とかその震えを抑えようとした。




どれくらい時間が経っただろうか───


暫く経って、ようやく久木さんの手の震えが治まっていた───