{霧の中の恋人}


「その、だから…きっとご両親は久木さんと別れたくて、傍を離れたわけじゃないんじゃないでしょうか…」



うまく言葉に乗せられなくて、もどかしい。

きっと久木さんのご両親は、大切な意味をこめて名前をつけた筈なのに…。


どう言えば、うまく伝えられるんだろう…。



「……そんな事、分からないじゃないか…。
名前なんて適当につけただけかもしれないだろ…」



「適当につけるにしては、珍しい名前じゃないですか!
きっと意味があるに違いありません!

それに…この紫蘭の花は、とっても丈夫なんです。
乾燥にも強くて、一人でたくましく生きられる花だそうです。
だから、きっとご両親は……」




──なんでだろう…。



なんで涙が溢れてくるんだろう──。


もどかしさでいっぱいになり、目から涙が零れてくる。



「…なぜ泣く…」



「分かりません…
でも…きっと久木さんのご両親も苦しんでたに違いありません…
何かその思いを想像したら、悲しくなっちゃって……」



綺麗な名前だけを残して、久木さんの前から消えたご両親…


どういう状況だったかとか、どんな事情があったとか…

何も知らないはずなのに、気持ちを想像するだけで胸がいっぱいになる───




「…クッ、クククク…」



突然、笑い声が聞こえた。


顔を上げると、久木さんが口元に手をあてて笑っていた。